前回の過去記事では、特許事務のミスはダブルチェックで完全に防ぐことが難しい話をしました。
詳しくはこちらの記事をご参考ください。
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特許事務のミスはダブルチェックで完全に防ぐことが難しい理由
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「正しいダブルチェックを行っていないからだ」と考える方もいるでしょう。
そこで、今回は、客観的な資料を集めてダブルチェックでミスを防ぐことが難しいことを検証していきたいと思います。
後半では、ダブルチェックに代わる代替策も紹介していきますのでぜひ最後までご覧ください。
本記事の信頼性
この記事を書いている私は、特許事務員として17年間特許事務所で働いた経験があり、特許事務全般の仕事に詳しいです。
本記事は、これから特許事務所で特許事務として就職しようと考えている方や、特許事務員の方に参考になります。
特許事務のミスをダブルチェックだけで防ぐことが難しい
以下の流れで解説していきます。
①ダブルチェックではミスを十分に防げないことを示すデータの解説
②ダブルチェックに対する誤解
①ダブルチェックだけではミスを防げないことを示すデータ
上記グラフは、多重チェックの心理学実験のデータです。
青線が理論値を示しています。
つまり、ダブルチェック、トリプルチェックとチェックの回数・チェックする人を増やせば増やすほどミスは減らせるものと理論上は考えられます。
しかし、実際に実験を行ってみた結果が赤線です。
ダブルチェックの場合、多少の効果はありますが、さらに多重化すればするほどミスが減るどころかむしろ増えていく結果となっています。
なぜこのような現象が起こるのでしょうか。
それは、「社会的手抜き(リンゲルマン効果)」の現象が発生するからと考えられます。
社会的手抜き(リンゲルマン効果)とは
ヒトに、多重チェックを行うと一人当たりの責任が薄くなり、「自分がミスっても誰かが止めてくれるだろう」という心理が働くこと
このように、心理学のデータからチェックの回数を増やせばミスを減らすことは難しいことが実証されています。
ダブルチェックで多少はミスを減らせますが、それでも十分ではありません。
ならば、トリプルチェック、というようにチェック回数を増やしても効果なしです。
②ダブルチェックに対する誤解
出典
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/shikoku/kenko_fukushi/000085435.pdf
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/shikoku/kenko_fukushi/000085434.pdf
ダブルチェックの役割は、ミスそのものを減らせるというものではなく、ミスを「発見」するものです。
ダブルチェックをするとミスそのものを減らせると考えている方が多いですが、それは誤解です。
この点については、心理学的に一般的な見解であり、出典内容にも触れられています。
上述したように、チェック回数を増やせば増やすほど社会的手抜きの心理が働くので、かえってミスが増えてしまいます。
ところで、社会的手抜きはなぜ発生するのでしょうか。
この点を上の図を用いて詳しく解説していきます。
上の図は、「記憶」や「注意制御」に問題があると脳が誤作動することを表した図です。
人間の脳には、以下の2つのパターンの動作モードがあると言われています。
システム1➤直感的で速い思考を行う「省エネモード」
システム2➤しかるべき注意を払う遅い「思考モード」
システム2は、非常に疲れるため、長時間持続せず作業時間がかかります。
そのため、人間の脳は、無意識ながらシステム1のモードに切り替え、疲弊しすぎないように調整しているそうです。
ヒトの脳はさぼることが好きなので、システム1のモードで脳活動をしているときにダブルチェックを行うと、脳はさらに省エネモードをとるようになり、ミスが減らないどころか逆に増えてしまいます(社会的手抜きの発生)。
このように、ダブルチェックは、信頼をおきすぎると痛い目にあうと心理学では一般的に言われています。
なお、出展内容では、ダブルチェックを否定するものではなく、正しくリスクを認識したうえで、ミス防止対策を考えることが必要と提言しています。
もう一度言いますが、ダブルチェックは、ミスの「発見」を目的とするものであって、ミスそのものを減らすものではありません。
ダブルチェックを安易に多用せずに、根本的にミスが発生しないような仕組みを考えることが大切です。
ではダブルチェックだけに頼らずに、ミスを減らしていくにはどうすべきか。
以下に解説していきます。
特許事務のミスを減らす方法はあるのか
①チェックのやり方を改良していくこと
②ダブルチェック以外の方法をとること
順番に解説していきます。
①チェックのやり方を改良していくこと
ヒトの脳はさぼることが好きです。
社会的手抜きの心理が働き、通常のダブルチェックではミスを減らすことが難しいです。
そこで、さぼらせない対策をした上でチェックを改良していきましょう。
具体的にはシステム1からシステム2へ強制切り替えさせるようなチェック方法に改良していきましょう。
例えば、機械チェックとの併用をしたり、担当者ごとチェック方法を変えるなど、他者依存を下げるダブルチェック手法を考えましょう。
②ダブルチェック以外の方法をとること
安易にダブルチェックを導入することはやめて、まずは、別の対策で解決可能かを検討しましょう。
ダブルチェックは、ミス発見が目的であるため、ミス防止機能としての精度は低いです。
ダブルチェックミスのためのダブルチェックなんてのはナンセンスです。
では別の対策として何が挙げられるか。
特許事務にRPAを導入することも有効な対策です。
RPA(Robotic Process Automation)とは、ロボットによる業務自動化の取り組みを表します。
RPAでは、上の図のように、業務の自動化に取り組みます。
①人間が、業務の処理手順をパソコンやサーバ上にあるソフトウェア型のロボットに登録する。
②ロボットがクラウドなどさまざまなアプリケーションを横断して業務を行う。
ポイントは、人間は、ロボットに処理してもらいたい業務をパソコン上で操作すればよいことです。
あとはロボットが処理をしてくれるので、人間は処理したものを確認すればOKです。
RPAを利用すると、以下の利点があります。
①ロボットが作成した書類は精度が高く、そもそもチェック前にミスが発生しにくい
②ロボットに書類を作成することで特許事務員の負担が減り、負担が大きくなり、注意力が低下することで伴うミスの発生を防止できる
RPAのメリットについては過去記事でも書いていますのでこちらをご覧頂ければと思います。
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知財業務にRPAを活用するメリットとデメリット
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なお、知財業務にRPAの支援サービスを提供しているところとしては以下のところがあります。
特許事務のミスはダブルチェックだけで完全に防ぐことが難しい理由のまとめ
ミスを完全に減らすために2つのことが重要です。
①ダブルチェックのリスクを正しく認識すること
②ダブルチェックを安易に多用しないこと
ダブルチェックの目的はミスを減らすことではありません。
ミスを発見することです。
ダブルチェックを過信せずRPAを導入するなど別の対策を行うことも重要です。
RPAのメリットについては過去記事でも書いていますのでこちらをご覧頂ければと思います。
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